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学習目標
- 金属、半導体、絶縁体における特徴的なフォノン特性を理解する
- フォノン測定の主要な実験手法(中性子散乱、ラマン分光、赤外分光)を学ぶ
- 第一原理計算によるフォノン計算の基礎を理解する
- Phonopyを使った実践的なフォノン計算を実行できるようになる
- フォノンが熱伝導、超伝導などの物性に与える影響を理解する
1. イントロダクション
これまでの章では、フォノンの理論的基礎を学んできました。本章では、実際の材料におけるフォノンの振る舞いと、それを測定・計算する手法について学びます。材料の種類(金属、半導体、絶縁体)によって、フォノン特性は大きく異なり、それが材料の熱的・電気的・機械的性質を決定します。
本章の構成
第1部では代表的な材料のフォノン特性を、第2部では実験手法を、第3部では計算手法を扱います。最後に、フォノンが実際の材料物性にどのように影響するかを議論します。
2. 金属のフォノン特性
2.1 単純金属(Al, Cu)
面心立方構造(fcc)を持つアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの単純金属は、フォノン研究の古典的な対象です。これらの金属は、比較的単純なフォノン分散関係を示します。
特徴的な性質
- 高対称性: fcc構造により、高い結晶対称性を持つ
- 音響分枝の優勢: 単原子基底のため光学分枝は存在しない
- 電子-フォノン結合: 自由電子がフォノンと強く相互作用
- Kohn異常: フェルミ面近傍で分散関係に特異性が現れる
アルミニウムのフォノン分散
Alのフォノン分散は以下の特徴を持ちます:
# Alのフォノン分散の概略図(簡略化モデル)
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 高対称点
k_points = np.linspace(0, 1, 100)
# 音響分枝(縦波)
omega_LA = 8.0 * np.sin(np.pi * k_points / 2)
# 音響分枝(横波、縮退)
omega_TA1 = 5.5 * np.sin(np.pi * k_points / 2)
omega_TA2 = omega_TA1 # 対称性により縮退
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.plot(k_points, omega_LA, 'b-', linewidth=2, label='LA')
plt.plot(k_points, omega_TA1, 'r-', linewidth=2, label='TA')
plt.xlabel('波数 k (Γ → X)', fontsize=12)
plt.ylabel('角振動数 ω (THz)', fontsize=12)
plt.title('アルミニウムのフォノン分散(概略)', fontsize=14)
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.savefig('al_phonon_dispersion.png', dpi=150)
plt.show()
Kohn異常
金属中の自由電子とフォノンの相互作用により、特定の波数でフォノン分散曲線に異常(屈曲点)が現れます。これはKohn異常と呼ばれ、フェルミ波数 \(2k_F\) の近傍で顕著です:
\[ \omega(\mathbf{q}) \sim |\mathbf{q} - 2\mathbf{k}_F|^{1/2} \]
2.2 銅のフォノン特性
銅(Cu)もfcc構造を持ちますが、Alよりも重い原子量(63.5 vs 27)のため、フォノン振動数は低くなります。また、d電子の影響により、電子-フォノン結合がより複雑になります。
AlとCuのフォノン特性比較
| 物性 | アルミニウム(Al) | 銅(Cu) |
|---|---|---|
| 結晶構造 | fcc | fcc |
| 原子量 | 27 | 63.5 |
| デバイ温度 | 428 K | 343 K |
| 最大フォノン振動数 | ~9 THz | ~7 THz |
| 熱伝導率(室温) | 237 W/(m·K) | 401 W/(m·K) |
| 電子-フォノン結合 | 中程度 | 比較的強い |
3. 半導体のフォノン特性
3.1 シリコン(Si)
シリコンは、ダイヤモンド構造(fcc格子に2原子基底)を持つ代表的な半導体です。2原子基底のため、音響分枝(3本)に加えて光学分枝(3本)が存在します。
シリコンのフォノン分散の特徴
- 6本の分枝: 3本の音響分枝(LA, TA1, TA2) + 3本の光学分枝(LO, TO1, TO2)
- バンドギャップ: 音響分枝と光学分枝の間に振動数ギャップが存在
- LO-TO分裂: Γ点でLOとTOモードが分裂(イオン性が弱いため小さい)
- ラマン活性: Γ点のLOモード(~15.5 THz)がラマン活性
# Siのフォノン特性を表示
def silicon_phonon_properties():
"""
シリコンの主要なフォノンモード
"""
phonon_modes = {
'Γ点のLOモード': {
'frequency': 15.53, # THz
'wavenumber': 520, # cm^-1
'activity': 'ラマン活性',
'symmetry': 'F2g'
},
'Γ点のTOモード': {
'frequency': 15.53, # THz (LOと縮退)
'wavenumber': 520, # cm^-1
'activity': 'ラマン活性',
'symmetry': 'F2g'
},
'TAモード(X点)': {
'frequency': 4.50, # THz
'wavenumber': 150, # cm^-1
'activity': '非活性',
'symmetry': None
},
'LAモード(X点)': {
'frequency': 12.32, # THz
'wavenumber': 410, # cm^-1
'activity': '非活性',
'symmetry': None
}
}
print("シリコンの主要なフォノンモード")
print("=" * 60)
for mode, props in phonon_modes.items():
print(f"\n{mode}:")
for key, value in props.items():
print(f" {key}: {value}")
# デバイ温度の計算(簡略版)
theta_D = 645 # K
print(f"\nデバイ温度: {theta_D} K")
print(f"室温(300K)でのフォノン占有数: {1/(np.exp(theta_D/300) - 1):.3f}")
# 実行
silicon_phonon_properties()
3.2 化合物半導体(GaAs)
ガリウムヒ素(GaAs)は、閃亜鉛鉱構造を持つIII-V族化合物半導体です。Siとの重要な違いは、イオン性の存在により、LO-TO分裂が顕著になることです。
GaAsの特徴的性質
- イオン性結合: GaとAsの電気陰性度差により部分的なイオン性
- 大きなLO-TO分裂: Γ点でLOモード(8.8 THz)とTOモード(8.0 THz)が分離
- 誘電異方性: 縦波と横波で誘電率が異なる
- 極性光学フォノン散乱: 電子移動度に大きく影響
Lyddane-Sachs-Teller関係式
LO-TO分裂と誘電率の関係:
\[ \frac{\omega_{LO}^2}{\omega_{TO}^2} = \frac{\varepsilon_0}{\varepsilon_\infty} \]
ここで、\(\varepsilon_0\)は静的誘電率、\(\varepsilon_\infty\)は高周波誘電率
Si vs GaAsフォノン比較
| 物性 | Si | GaAs |
|---|---|---|
| 結晶構造 | ダイヤモンド | 閃亜鉛鉱 |
| LO振動数(Γ点) | 15.53 THz (520 cm⁻¹) | 8.75 THz (292 cm⁻¹) |
| TO振動数(Γ点) | 15.53 THz (520 cm⁻¹) | 8.03 THz (268 cm⁻¹) |
| LO-TO分裂 | ~0 cm⁻¹ | ~24 cm⁻¹ |
| イオン性 | ほぼゼロ | 約30% |
| デバイ温度 | 645 K | 344 K |
4. 絶縁体のフォノン特性
4.1 イオン結晶(NaCl)
塩化ナトリウム(NaCl)は、岩塩構造を持つ典型的なイオン結晶です。強いイオン性により、フォノン特性が金属や半導体とは大きく異なります。
NaClの特徴
- 強いイオン性: Na⁺とCl⁻の完全なイオン結合
- 非常に大きなLO-TO分裂: Γ点で顕著な分裂(~100 cm⁻¹)
- 赤外活性: TOモードが強い赤外吸収を示す
- 軟らかいフォノン: イオン質量が大きいため低振動数
4.2 共有結合結晶(ダイヤモンド)
ダイヤモンドは、純粋な炭素のsp³混成軌道による強固な共有結合結晶です。最も硬い物質の一つであり、極めて高いフォノン振動数を持ちます。
ダイヤモンドの特徴
- 極めて高い振動数: Γ点のLOモード ~40 THz (1332 cm⁻¹)
- 高デバイ温度: ~2200 K(室温でほとんど量子的)
- 非常に高い熱伝導率: ~2000 W/(m·K)(室温)
- 長い平均自由行程: フォノン散乱が少ない
# 各種材料のフォノン特性比較
import pandas as pd
def compare_phonon_properties():
"""
代表的な材料のフォノン特性を比較
"""
data = {
'材料': ['Al', 'Cu', 'Si', 'GaAs', 'NaCl', 'Diamond'],
'結合タイプ': ['金属', '金属', '共有', '共有-イオン', 'イオン', '共有'],
'デバイ温度 (K)': [428, 343, 645, 344, 321, 2200],
'最大フォノン振動数 (THz)': [9.0, 7.0, 15.5, 8.8, 8.0, 40.0],
'Γ点LO (cm⁻¹)': ['-', '-', 520, 292, 264, 1332],
'Γ点TO (cm⁻¹)': ['-', '-', 520, 268, 164, 1332],
'LO-TO分裂 (cm⁻¹)': ['-', '-', 0, 24, 100, 0],
'熱伝導率 (W/m·K)': [237, 401, 148, 55, 6.5, 2000]
}
df = pd.DataFrame(data)
print("材料別フォノン特性比較表")
print("=" * 80)
print(df.to_string(index=False))
# 実行
compare_phonon_properties()
材料間の傾向
- 軽い原子 → 高い振動数(C > Si > Ge)
- 強い結合 → 高いデバイ温度(Diamond > Si > Al)
- イオン性 → 大きなLO-TO分裂(NaCl > GaAs > Si)
- 高対称性 → 単純な分散関係(fcc金属)
5. フォノン測定の実験手法
5.1 非弾性中性子散乱(INS)
中性子散乱は、フォノン分散関係全体を測定できる最も直接的な手法です。中性子のド・ブロイ波長が原子間隔と同程度であり、エネルギーがフォノンエネルギーと同程度であるため、フォノン励起を直接観測できます。
測定原理
エネルギー保存則:
\[ \hbar\omega = E_i - E_f = \frac{\hbar^2}{2m_n}(k_i^2 - k_f^2) \]
運動量保存則(準運動量保存):
\[ \hbar\mathbf{q} = \hbar(\mathbf{k}_i - \mathbf{k}_f) + \hbar\mathbf{G} \]
ここで、\(m_n\): 中性子質量、\(k_i, k_f\): 入射・散乱中性子波数、\(\mathbf{G}\): 逆格子ベクトル
中性子散乱の利点と欠点
利点
- ブリルアンゾーン全体の分散関係を測定可能
- 全てのフォノンモード(光学・音響)を観測
- 単結晶・多結晶両方に適用可能
- 磁気励起も同時に測定可能
欠点
- 大型施設(原子炉、加速器)が必要
- 比較的大きな試料(~1 cm³)が必要
- 測定時間が長い(数時間~数日)
- 放射化の可能性
代表的な中性子散乱施設
- J-PARC(日本): 大強度陽子加速器施設
- ILL(フランス): 世界最高輝度の研究用原子炉
- SNS(米国): スペーレーション中性子源
- ISIS(英国): パルス中性子・ミュオン施設
5.2 ラマン分光
ラマン散乱は、可視光レーザーを試料に照射し、非弾性散乱光を分析することで、フォノンモードを測定する手法です。Γ点近傍のフォノンのみを観測しますが、小型の装置で迅速に測定できる利点があります。
ラマン散乱の選択則
ラマン活性となるためには、フォノンモードが分極率テンソルを変化させる必要があります:
\[ I_{\text{Raman}} \propto \left|\frac{\partial\alpha}{\partial Q}\right|^2 \]
ここで、\(\alpha\): 分極率、\(Q\): 正規座標
典型的なラマンスペクトル(Si)
# Siのラマンスペクトルシミュレーション
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.stats import norm
def simulate_raman_spectrum():
"""
シリコンのラマンスペクトルをシミュレート
"""
# 波数範囲 (cm^-1)
wavenumber = np.linspace(100, 1000, 1000)
# Siの主要なラマンピーク(Γ点のLO/TOモード)
# 実際には520 cm^-1付近に鋭いピーク
peak_position = 520 # cm^-1
peak_width = 3.0 # FWHM
# ローレンツ関数でピークをモデル化
def lorentzian(x, x0, gamma, amplitude):
return amplitude * (gamma**2) / ((x - x0)**2 + gamma**2)
intensity = lorentzian(wavenumber, peak_position, peak_width/2, 1000)
# ノイズ追加
noise = np.random.normal(0, 10, len(wavenumber))
intensity_with_noise = intensity + noise
intensity_with_noise[intensity_with_noise < 0] = 0
# プロット
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.plot(wavenumber, intensity_with_noise, 'b-', linewidth=1)
plt.axvline(x=peak_position, color='r', linestyle='--',
label=f'F2g mode @ {peak_position} cm⁻¹')
plt.xlabel('ラマンシフト (cm⁻¹)', fontsize=12)
plt.ylabel('強度 (a.u.)', fontsize=12)
plt.title('シリコンのラマンスペクトル(室温)', fontsize=14)
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.xlim(100, 1000)
plt.tight_layout()
plt.savefig('si_raman_spectrum.png', dpi=150)
plt.show()
print(f"シリコンのラマン活性モード:")
print(f" 振動数: {peak_position} cm⁻¹ (15.53 THz)")
print(f" 対称性: F2g (三重縮退)")
print(f" 線幅: {peak_width} cm⁻¹")
print(f" 温度依存性: 室温で線幅が広がる(非調和効果)")
# 実行
simulate_raman_spectrum()
ラマン分光の応用
- 応力・歪み評価: ピークシフトから局所応力を測定
- 結晶性評価: ピーク幅から結晶品質を評価
- 温度測定: 反ストークス/ストークス比から局所温度決定
- ドーピング評価: フォノンモードの変化からドーパント濃度推定
- 2次元材料研究: グラフェン、MoS₂などの層数同定
5.3 赤外分光(FTIR)
フーリエ変換赤外分光(FTIR)は、赤外光の吸収を測定することで、赤外活性なフォノンモードを観測します。ラマン分光と相補的な情報を提供します。
赤外活性の選択則
赤外活性となるためには、フォノンモードが双極子モーメントを変化させる必要があります:
\[ I_{\text{IR}} \propto \left|\frac{\partial\mu}{\partial Q}\right|^2 \]
ここで、\(\mu\): 双極子モーメント、\(Q\): 正規座標
ラマン vs 赤外の相補性
| 特性 | ラマン分光 | 赤外分光 |
|---|---|---|
| 励起源 | 可視光レーザー(532 nm等) | 赤外光(2.5-25 μm) |
| 活性条件 | 分極率変化 | 双極子モーメント変化 |
| 対称モード | ラマン活性 | 赤外不活性 |
| 反対称モード | ラマン不活性(場合による) | 赤外活性 |
| 試料準備 | 簡単(非破壊) | やや複雑(薄片化が必要な場合も) |
| 空間分解能 | 高い(~1 μm) | 低い(~10 μm) |
| 適用例 | Si, Diamond, グラフェン | NaCl, GaAs, 有機材料 |
中心対称結晶の相互排他律
中心対称性を持つ結晶(Si, Diamondなど)では、ラマン活性なモードは赤外不活性、赤外活性なモードはラマン不活性となります(相互排他律)。一方、非中心対称結晶(GaAsなど)では、同じモードがラマン・赤外両方で活性となることがあります。
6. フォノン計算の第一原理手法
6.1 密度汎関数理論(DFT)とフォノン
現代のフォノン計算は、**密度汎関数理論(DFT)**に基づいています。DFTは電子状態を量子力学的に計算し、そこから原子間力定数を求め、フォノン分散を得ます。
計算手順
力定数の計算法
1. 有限変位法(Finite Displacement Method)
原子を微小変位させ、他の原子に働く力を計算することで、力定数を求めます:
\[ \Phi_{\alpha\beta}(ll’) \approx \frac{F_\alpha(l) - F_\alpha^0(l)}{\Delta u_\beta(l’)} \]
ここで、\(\Phi\): 力定数、\(F\): 力、\(\Delta u\): 変位、\(\alpha,\beta\): デカルト成分
- 利点: 実装が簡単、様々なDFTコードで使用可能
- 欠点: 多数の原子変位パターンが必要(計算コスト大)
2. 密度汎関数摂動理論(DFPT)
原子変位に対する電子密度の応答を、摂動論的に直接計算します:
\[ \frac{\partial^2 E}{\partial u_\alpha(l)\partial u_\beta(l’)} = \text{DFPT計算} \]
- 利点: 変位パターン不要、効率的、誘電応答も同時計算
- 欠点: 実装が複雑、対応DFTコードが限定的
6.2 主要なDFTコード
VASP (Vienna Ab initio Simulation Package)
- タイプ: 平面波基底+PAW法
- フォノン計算: 有限変位法(Phonopy併用が標準)
- 特徴: 高精度、広範な機能、商用(学術ライセンス有)
- 得意分野: 固体物性全般、表面・界面
Quantum ESPRESSO
- タイプ: 平面波基底+擬ポテンシャル
- フォノン計算: DFPT(PHonon モジュール)
- 特徴: オープンソース、DFPT完備、電子-フォノン結合計算可能
- 得意分野: フォノン物性、超伝導、スピントロニクス
CASTEP
- タイプ: 平面波基底+擬ポテンシャル
- フォノン計算: DFPT(Linear response)
- 特徴: 商用、GUI(Materials Studio)、ラマン・IR活性計算
- 得意分野: 材料設計、スペクトル予測
6.3 Phonopyによるフォノン計算
Phonopyは、オープンソースのフォノン計算パッケージで、様々なDFTコード(VASP, Quantum ESPRESSO, LAMMPS等)と連携して動作します。有限変位法に基づき、フォノン分散、状態密度、熱的性質を計算します。
Phonopyの基本ワークフロー
# Phonopyを使ったフォノン計算の基本フロー
# 1. 必要なライブラリのインポート
from phonopy import Phonopy
from phonopy.interface.vasp import read_vasp
from phonopy.file_IO import parse_FORCE_SETS, parse_BORN
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
# 2. 結晶構造の読み込み
def phonopy_basic_workflow():
"""
PhonopyでSiのフォノン計算(概念的な例)
"""
# 単位格子の読み込み(VASP POSCAR形式)
unitcell = read_vasp("POSCAR")
# Phonopyオブジェクト作成(2x2x2スーパーセル)
phonon = Phonopy(unitcell,
supercell_matrix=[[2, 0, 0],
[0, 2, 0],
[0, 0, 2]],
primitive_matrix='auto')
# 変位パターン生成
phonon.generate_displacements(distance=0.01) # 0.01 Å変位
# スーパーセルを取得(これをDFT計算に使用)
supercells = phonon.supercells_with_displacements
print(f"生成された変位パターン数: {len(supercells)}")
print("各スーパーセルをDFT計算し、力を求める...")
print("\n基本的な使い方:")
print("1. POSCARファイルを準備")
print("2. phonopy -d --dim='2 2 2' で変位パターン生成")
print("3. 各POSCAR-XXXでVASP計算(力のみ)")
print("4. phonopy -f vasprun.xml でFORCE_SETS作成")
print("5. phonopy -p band.conf でバンド図作成")
return phonon
実践例: Siのフォノン計算
(詳細なコード例と説明は元のHTMLに基づいて省略)
Phonopyの強力な機能
- 熱的性質計算: 比熱、自由エネルギー、エントロピー
- 非調和効果: 準調和近似による熱膨張
- 等方性材料: 多結晶平均の物性値
- アニメーション: フォノンモードの可視化
- モード分解熱伝導: 各モードの寄与分析
7. フォノンが支配する材料物性
7.1 熱伝導
固体の格子熱伝導は、フォノンによる熱エネルギー輸送で決まります。フォノンを「熱を運ぶ粒子」として扱うフォノン気体モデルが有効です。
格子熱伝導率の式
キネティック理論より:
\[ \kappa_{\text{lat}} = \frac{1}{3}\sum_{\mathbf{q},j} C_{\mathbf{q}j} v_{\mathbf{q}j} \ell_{\mathbf{q}j} \]
ここで、\(C\): 比熱、\(v\): 群速度、\(\ell\): 平均自由行程
フォノン散乱機構
- ウムクラップ散乱: 逆格子ベクトルが関与する3フォノン過程(高温で支配的)
- 境界散乱: 試料表面・粒界での散乱(ナノ材料で重要)
- 点欠陥散乱: 不純物・同位体による散乱
- 転位散乱: 結晶欠陥による散乱
7.2 電子-フォノン結合と超伝導
BCS理論によれば、従来型超伝導体では電子-フォノン相互作用がクーパー対形成を媒介します。超伝導転移温度\(T_c\)は電子-フォノン結合定数\(\lambda\)に強く依存します。
McMillanの式
\[ T_c = \frac{\omega_{\log}}{1.20}\exp\left(-\frac{1.04(1+\lambda)}{\lambda - \mu^*(1+0.62\lambda)}\right) \]
ここで、\(\omega_{\log}\): 対数平均フォノン振動数、\(\lambda\): 電子-フォノン結合定数、\(\mu^*\): クーロン擬ポテンシャル
代表的な超伝導体の特性
| 材料 | 結晶構造 | Tc (K) | λ | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Al | fcc | 1.2 | 0.43 | 弱結合超伝導体 |
| Pb | fcc | 7.2 | 1.55 | 強結合超伝導体 |
| Nb₃Sn | A15 | 18.3 | 1.9 | 高Tc金属間化合物 |
| MgB₂ | 六方 | 39 | 0.87 | 多バンド超伝導 |
8. 上級トピックへのプレビュー
8.1 フォノン輸送のボルツマン方程式
より厳密な熱伝導理論では、フォノンのボルツマン輸送方程式を解きます:
\[ \frac{\partial f}{\partial t} + \mathbf{v}\cdot\nabla_{\mathbf{r}}f + \mathbf{F}\cdot\nabla_{\mathbf{p}}f = \left(\frac{\partial f}{\partial t}\right)_{\text{coll}} \]
ここで、\(f\): フォノン分布関数、\(\mathbf{v}\): 群速度、\(\mathbf{F}\): 外力、右辺は衝突項(散乱過程)
8.2 非調和効果と格子動力学
高次(3次、4次)のフォノン相互作用は、有限温度でのフォノン振動数シフト、線幅、そして熱伝導に重要です。これらは格子動力学分子動力学(LD-MD)や自己無撞着フォノン理論で扱われます。
8.3 トポロジカルフォノニクス
トポロジカル絶縁体の概念をフォノン系に適用した新分野です。バンド構造のトポロジーにより保護されたエッジ状態が、ロバストな音響・熱輸送を実現する可能性があります。
8.4 2次元材料のフォノン
グラフェン、MoS₂などの2次元材料では、層外方向(ZA)モードが特異な振る舞いを示します。また、層数によってフォノンモードが変化し、ラマン分光で同定可能です。
9. まとめ
本章では、実材料におけるフォノンの多様な振る舞いを学びました:
- 金属、半導体、絶縁体それぞれに特徴的なフォノン特性が存在する
- 中性子散乱、ラマン分光、赤外分光など、相補的な実験手法がある
- 第一原理計算(DFT + Phonopy)で定量的なフォノン予測が可能
- フォノンは熱伝導、超伝導など、重要な材料物性を支配する
- 現代の材料研究では、実験と計算の両輪によるフォノン理解が不可欠
次のステップ
本シリーズの最終章では、フォノン研究の最新トピックと今後の展望を紹介します。また、実際の研究論文を読むためのガイドや、より高度な計算手法についても触れます。
演習問題
(詳細な演習問題と解答は元のHTMLに基づいて省略)
参考文献
- G. Grimvall, “Thermophysical Properties of Materials” (Elsevier, 1999)
- M. T. Dove, “Introduction to Lattice Dynamics” (Cambridge University Press, 1993)
- G. L. Squires, “Introduction to the Theory of Thermal Neutron Scattering” (Cambridge, 2012)
- D. A. Long, “The Raman Effect” (Wiley, 2002)
- A. Togo and I. Tanaka, Scr. Mater. 108, 1 (2015) — Phonopyの原著論文
- P. Giannozzi et al., J. Phys.: Condens. Matter 21, 395502 (2009) — Quantum ESPRESSOの論文
- G. Kresse and J. Furthmüller, Phys. Rev. B 54, 11169 (1996) — VASPの論文
- W. Li et al., Comput. Phys. Commun. 185, 1747 (2014) — ShengBTE(フォノン輸送計算)
- G. A. Slack, J. Phys. Chem. Solids 34, 321 (1973) — ダイヤモンドの熱伝導率の古典論文
- P. B. Allen and R. C. Dynes, Phys. Rev. B 12, 905 (1975) — McMillan式の改良版
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